大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和25(あ)2921 判決

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人森川金寿の上告趣意第一点について。

論旨は被告人の検察官に対する自白が強制によるものであり又は少くとも任意に

なされたものでない疑のあるにかかわらずこれを証拠として採用したものであるか

ら原判決は憲法三八条に違反するものであると主張する。しかし記録を調査するも

所論の自白が警察官の強制によるものであり又は不任意になされたものであること

を認めることはできないのであるから論旨は採るを得ない。

同第二点について。

原審の弁護人は追控訴趣意書を提出しているが右追控訴趣意書は専ら事実誤認を

主張するものであつて証拠調を請求しているものではないからその提出をもつて証

拠調の請求があつたものと認めることはできない。また被告人の原審公判廷におけ

る所論の供述も証拠調の請求と認めることはできない。次に原審第四回公判におい

て弁護人は証人としてA、B、Cを申請し裁判所はB、Cの両名を採用しAに関す

る申請を却下しているのであつて論旨にいうDについては申請がなかつたのである。

論旨は所論の点につき証拠調の請求が為されたことを前提とするものであるがその

前提の採るべからざる以上論旨は採用できない。

同第三点について。

しかし原判決に重大な事実の誤認があると認めることはできないのであるから刑

訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

被告人の上告趣意について。

警察官に対してなした被告人の自白が強制によるものであるという点については

弁護人の論旨第一点に対して説明したとおりである、その他の論旨は事実誤認の主

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張であつて上告適法の理由にならない。

よつて刑訴四一四条三九六条により主文のとおり判決する。

右は裁判官小谷勝重の反対意見を除き、その他の裁判官一致の意見である。

裁判官小谷勝重の反対意見は次のとおりである。

職権をもつて調査するに、本件第一審判決の法令の適用は「刑法一九九条、四五

条前段、四七条、一〇条、一四条」となつている。したがつてこの適用法条からは、

その処断刑は二〇年以下の有期懲役刑でなければならない。

しかるに主文は「被告人を無期懲役に処する」とあるから、正に主文と理由との間

にくいちがいがあるのである。

しかるに、右の点は控訴趣意として主張されておらず、原審またこの点を黙過し

て、第一審判決の量刑は不当であるとの控訴趣意の主張に対して、「原審が被告人

に対し無期懲役に処する旨の言渡をしたのは量刑重きに過ぎるものではないと認め

られる」といつているのである。

さて、以上のごとき第一審判決の違法を黙過して、これをこのまま確定、執行に

導いてよいであろうか。

論者或は、判決は主文が中心となるものであるから、第一審判決は被告人に対し

て無期刑を科したことに間違いなく、ただ法令の適用において過誤があるに過ぎな

い、また原判決も理由において第一審判決が無期懲役の言渡をしたのは量刑重きに

過ぎるものではないと言つているではないか、しからば今更第一審判決の右瑕疵を

採り上げても、結局その瑕疵は判決に影響を及ぼさないものというべきであると主

張するかも知れない。

しかし、判決形成の論理的過程からすれば、主文は理由の結果というべきである

から、この観点からすればむしろ理由が正しく主文に誤りがあるといえるのである。

しかし、判決書作成の現実の問題としては何れが正しく何れが誤りとも断定できな

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い場合もある。要するに、以上何れにしても判決書中主文と理由にくいちがいがあ

る場合、主文を主としてこれを正しいとし理由を従としてこれを誤りであるとする

ことは、上示の如く論理上からも現実の問題からもこれを首肯することはできない

のである。現に裁判の宣告について、刑訴規則三五条二項は「判決の宣告をするに

は主文及び理由を朗読し、又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければなら

ない」と規定し、理由の朗読乃至理由の要旨の告知が要請されているのである。ま

た、原判決が第一審判決主文の無期懲役刑をもつて量刑重きに過ぎるものではない

と認めるという意味も、第一審判決がその主文と理由との間にくいちがいのない正

当な判決であることを前提とした場合にのみいい得るに過ぎないものといわねばな

らない。

以上の如く、本件第一審判決は理由と主文にくいちがいがあり、そしてそのくい

ちがいは既述の如く論理的にいえば寧ろ主文に誤りがあるといえるし、現実の問題

からしても主文と理由の何れに誤りがあるか不明であるというべきであるから、第

一審判決の右の違法は判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるものと断ぜざるを

得ない。しかして、右判決及びこれを維持した原判決はこれを破棄しなければ著し

く正義に反するものと本裁判官は思料する(刑訴四一一条の解釈上、同条にいわゆ

る「原判決」の瑕疵のなかには原判決が触れざる第一審判決の瑕疵をも含むものと

解する)。されば、本件は右の理由によりすべからく、被告人本人並びに弁護人の

各上告趣意に対する判断を省略し、刑訴四一一条一号、四一四条、三九七条四一三

条にしたがい、第一、二審各判決を破棄し事件を千葉地方裁判所に差戻すべきもの

と思料する。

なお以上の違法(即ち本件において確定する判決である、第一審判決の以上の違

法)は、非常上告の対象となるものと本裁判官は思料する。

検察官 松本武裕関与

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昭和二六年七月六日

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 霜 山 精 一

裁判官 栗 山 茂

裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 藤 田 八 郎

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